無題
 ワタナベは椅子に深々と腰掛けて、一息ついた。その時、弱々しいノックの音がした。  きっと彼だろう。  そう考えると顔が少しにやけてくる。  いけない、俺は生徒会長なんだ、と頬を叩いて気を紛らわす。   「どうぞ」  そっとドアを開けたのは、やはり彼、健だった。 「失礼します・・・健です」  ワタナベは健をソファーに座らせ、自分は健の隣りに腰掛けた。 「それで・・・・話って何ですか?わざわざ中等部の僕を呼んでまで」 「まあ、大した用事じゃ無いんだ」  ワタナベは語尾を濁し、ポットでお湯を沸かし始めた。  個人的に持ち込んでいるガスコンロで。 「いいですよ、そんなお茶なんか」 「健君、紅茶は好き?」 「・・・・好きです・・・けど」 「じゃあ待っててくれ、今淹れるから」  ワタナベはマグカップにティーバッグを入れ、健に手渡した。  健が一口飲むのを満足そうに見つめて、ワタナベは話し始める。  「今日来てもらった理由なんだけど・・・・健君、寮で何かしただろう?」  健の肩がぴくりと揺れるのを、ワタナベは見逃さなかった。  しばらく間が空く。 「え、な、何のことですか?」   「兄貴先生と・・・アレ、しただろう?寮の・・・・しかも健君の部屋で」  ワタナベはあえてその行為の名称を伏せた。  健がマグカップを持つ手が震える。  半分ほど開いた窓からは風が絶え間なく入ってきて、カーテンが千切れそうなほどだった。  妙に涼しい。 「覗いた訳じゃないけれど・・・見たんだ。俺が。健君がヤってるの。どうしようかと思った」  ワタナベは苦笑しながら窓を閉める。  健はうつむいたまま動かない。 「・・・・・言うんですか?」 「誰に?」 「みんなに」 「言わない。―――でも、その代わり何かしてもらおうかな・・・・」  「・・・・交換条件、ですか」 「とりあえず、俺とヤるってのはどうだろう」  にやりと笑ってワタナベが言った。  返事を待たずに、彼は健をソファーに押し倒し、軽くキスをした。  そっと胸の辺りを撫でると、健はびくんと反応する。 「あっ・・・・」 「気持ちイイ?」 「・・・・」 「じゃあ止めるけど・・?」 「・・・気持ちいいです。すごく・・・」  ワタナベは満足げに肯き、手を下に伸ばしていく。 「そうだな・・・健君。君はスクール水着が似合うかもしれないな」 「んっ・・・あぁっ」 「着てみないか?」 「・・・・はい・・・っ・・・」    ワタナベは机の引き出しから水着を取り出しかけて、手を止めた。  健君は俺のことが好きな訳じゃない。  それなのに俺は――――― 「・・・?ワタナベさん・・・・?」 「・・・・・」  健は何かに気が付いたような顔をして、上半身を起こした。  まだほんのりと赤い顔のまま、呟くようにして言う。 「僕が好きなのは、ワタナベさんだけですよ」 「・・・・兄貴先生は・・・・?」 「あの人は、そっちのことも教えてくれた先生だから例外」  健はワタナベに近寄って、彼を抱きしめる。 「だからそんな顔しないでくださいよ。・・・ね」 「・・・・わかった。じゃあこれ着てもらおうか」  ワタナベは急に元気を取り戻し、水着を机に広げた。 「・・・・ところで・・・あぁっ・・・何かすごく気持ちいいんですけど・・・」 「ああ、健君。それはあれだよ。紅茶。――――悪いけど入れさせてもらったよ。媚薬とかいうやつ」  水着を着た健をなで回しながらワタナベが言った。  放課後が終わるまでまだまだ時間はたっぷりある。  二人の営みもしばらくは終わりそうになかった―――――
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