−ケン、高等部に来る−
 教室のドアが開いて流れ込んだ冷たい空気につい不機嫌な声が出た。  「さみいだろ」  必要以上に開け放たれたドアのところには  見なれない制服を着たやつがたっていた。  たぶんとかしてないであろうもさもさの髪の下に人なつっこそうな目がのぞいている。  目をあわせた時、教室のはじからでかい声がとんだ。  「あ、君が噂の転校生?」  転校生の視線が俺を通り越してでかい声の主に移る。  教室の中央に転校生とでかい声の主(ナミだ)を取り囲むように  人が集まっていた。 俺は輪には加わらなかった。  転校生に興味がなかったわけじゃあないが  声がでかい方が正しいと思ってるやつは嫌いなのだ。  「マサムネ、おまえケンのことどう思うよ」  「は?どうって」  「なんかむかつかね?転校そうそう仕切りだしてよお」  「はは、仕切ってんのは別のやつだろ。」  確かにケンの影響力はすごく、  金魚の糞よろしくついてまわるやつの数も日々増殖中といった感じだ。  けれど転校してきて1ヶ月での俺の印象は  ちょっと天然はいってるけど善良なガキといったところだ。  ただ、なぜか変えるつもりのないらしい前の学校の制服や  違う集団で育ったんだなと感じさせるようなにおいが  ある種の人々を引き付けているのかも知れない。  まあ俺にはどうでもいいことだ。  スニーカーがハイテクだろうとローテクだろうと  下着がブリーフだろうとトランクスだろうと、まあふんどしだって  好きなものを履けばいいんだ。  ----あの日まではそう思っていた------  放課後の冷えきった教室に声が響く。  「マサムネさん、俺のこと嫌いなんですか」  いつもよりぼさぼさで、もうアフロと呼んでもおかしくないくらいの  頭が激しく動いた。  マサムネの金ぶち眼鏡の奥の目が一瞬ケンの目をとらえた。  「・・・べつに」  教室の寒さのせいかマサムネの耳の先が赤く染まっている。  「でも、マサムネさんがナミと話す時でも隣にいる俺とは  目もあわせてくれないじゃないですか」  マサムネにつめより眼鏡に手をかけようとしたケンを制止するため  言葉を発せようと口を開いた。  が、もう声にはならなかった。  隣の校舎からかすかに聞こえてくるひとし部長の補習の声だけが  二人の耳に届いていた。  「要点のみにて失礼しました」
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