師、走る
 夜、怪しく輝くネオン街でひときわ異彩を放つ二人が歩いている。 「やっぱり…巡回とはいえ男二人ってのは目立つんですかねえ…兄貴さん」  紐井は隣の男に話しかけた。話しかけられた男兄貴は紐井の方を向いて答える 「そうですよねえまったく…うちの学園なんてほとんど男ばかりで全寮制なんだ  から、こんなとこに来る奴なんて少ないでしょうに」  紐井と兄貴はテキスト学園の科学教師と体育教師である、今日は生徒の非行防止 の為にと提案された二人一組で行われる繁華街巡回の当番だった。 「ふぅそれにしても師走とはよく言ったものですねえ…まさか自分が走り回るほう  になろうとは考えてもいませんでしたよ。」 「紐井さんは今年が初めてですしね、まあ慣れちゃえば力の抜きどころが見えて  きますよ。」  兄貴が微笑む。  今年の春、紐井は勤めていた会社を退職し、このテキスト学園の教師になった。  教師のほうが自分の好きな研究を空いた時間にできると思ってのことだったが、  いざ教師になってみるとこれほど忙しいものかとちょっと後悔していた。 (まぁ人間関係にも恵まれましたしね…)  と心の中で呟いていつの間にか前を歩く兄貴の背中を見つめた。  兄貴は紐井より一つ年下ではあるが、立場上紐井よりも先輩でこの繁華街巡回も 何度か経験している  巡回ルートを把握している兄貴に紐井はついていくしかなかった。 「ホテル街はこんなもんですかね。じゃあ次にいきましょうか」 「次ですか?。」  紐井はぼ〜っとした顔で聞き返した 「ええ、2丁目のほうですよ…。」 「に…2丁目?」  一瞬兄貴がいつもと違う笑顔を見せたような気がした。  兄貴の説明によれば、テキスト学園は圧倒的に男子生徒が多く、そういった臭味 の者も実は少なくなくハッテン場と言われる2丁目付近も巡回のルートに含まれて おり、そう言った場所は異質なものには敏感に反応することから、この地区の巡回 の時には、男性教諭二人で回ることになっているらしい。 「そうだったんですか…なるほどねぇ。」 「すいません紐井さん、前もって言っておかなくて…」  頭を下げる兄貴に紐井は慌てる 「そ…そんな、兄貴さんが謝ることないですよ、ルート確認してなかったのは僕の  ほうなんですし…」 (確認は少ししておいたんですけどねぇ…見間違ってたんでしょうかねぇ)  紐井は学校で確認していた巡回ルートを別の物だったのだろうと考えていた。  ちょっと先を歩く兄貴がまた違う笑顔をしたような気がした… 「この辺はまだ普通の地域ですし、ちょっとそこの公園で休憩しましょうか?」  兄貴に促されるまま紐井は公園のベンチに座る、ライトが木陰に隠れてあたりは 薄暗かった。  兄貴がいつの間にか買ってきた缶コーヒーを啜る。暖かさが心地よかった  突然兄貴が紐井の肩を引き寄せて耳元で囁いた 「紐井さん…ちょっとじっとしててください、背中に虫が…」  虫という言葉を聞いて、紐井は身体を硬直させた。紐井は虫が大嫌いだった、  夏の夜などは窓の外を見るたびに大騒ぎしていたのを兄貴は覚えていたのだろう。 「う…虫?いや!取って取ってください!」  兄貴の腕が背中に回ると紐井は自分が兄貴に抱きしめられている体勢だと気が つきうつむいた。  兄貴の胸板が紐井のおでこに当たる…耳が赤くなっていくのを感じた 「もう大丈夫ですよ紐井さん。」  耳に響く声に顔を上げるとすぐ近くに兄貴の顔がある、慌てて離れ礼を言おうと するとまた腕を引き寄せられた。 「あ…っふ…」  名前を呼ぼうとした瞬間唇が重ねられ息を呑む。  口の中に入り込んできた舌から、さっき飲んでいた缶コーヒーの甘ったるい味が 伝わってくる。  長い、長い口付けに身体の力が抜けていき、頭の中が真っ白になる。  しかし下腹部あたりからの更なる快感に紐井は声を漏らす。 「紐井さん、触る前から…こんなに…」  兄貴の指がパンツ越しになぞりはじめやがてファスナーをおろしにかかる。 「あ…兄貴さん…や……めて…」  直に触れられたとたん寒さで一瞬覚醒しかけた感覚が、また底の方に沈んでいく。 「ん…あぅ…くっおね…い…ああっ……も…もう」  執拗なまでの兄貴の指使いに紐井は彼の手の中で果てた…。  ルート巡回や公園、虫、すべてが兄貴の計画だったと聞かされたのは、その後 二人が一つになった日の朝の事だった。 「もうあの時はいつの間にかベンチに横になってて、背中がすれて痛かったんです  からねぇ!」  紐井は少し拗ねてみせた 「それに今日は腰が痛いんですよぅ…せっかく1時間目から研究実験できるはず  だったのに…」 「大丈夫ですか?…まあ慣れちゃえば力の抜きどころが見えてきますよ。」  兄貴はいつもの笑顔であの日と同じ事を言った。
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