お兄ちゃんの秘密2
 ちゆは、初等部の児童会長なんていうのをやっています。  初等部の児童会長なんて、名前だけで、あんまり仕事なんて無いようなものなの  ですが、それでもいろいろと勉強になることが多くって、楽しいです。  それに、中等部や高等部の生徒会役員のお兄さん・お姉さん達と仲良くなれる  のが、とっても楽しいです。  中でも、ワタナベさんと出会えたのが、一番嬉しかったです。  ワタナベさんは、爽やかで、温厚で、人とケンカした、とか、他人に恨まれた、  という話を全く聞きません。初等部にもファンが多い、みんなのアイドルです。  理系で、専門的な知識も多いので、将来も有望視されています。ワタナベさんは、  今ちゆが結婚したい人、ナンバー1です。  「ちゆちゃんは、かわいいなー」と会うたびに言ってくれるので、多分、相思  相愛だと思うのですが、前回、カズヤお兄ちゃんのようなことがあるので、油断  できません。  今日の占いをチェックしたら、「恋のライバル登場! 槍で突かれます」  とか書いてあったので、ちゆ、決めました。今度は、ライバルとも戦います!  恋はサバイバルです。  というわけで、下僕達や分身をうまく駆使して、今日は学校をお休みして、  ワタナベさんを観察することにしました。ワタナベさんのいるのは、4階の  一番端の教室です。木に登っても見えないので、近くのビルから望遠鏡を駆使  してウォッチすることにしました。今回も、盗聴器はバッチリです。  「ワタナベ。今日の予算会議なんだけど…って、お前、また学校にエロ本持って   きてるのかよ!」  2時間ぐらい観察して、とりあえず分かったことは、ワタナベさんが、とっても  健康的な男子高校生だ、ということでした。ちゆが見たところ、エッチな本を  休み時間だけでなく、授業中も見ていました。そしてひとしきり見終わったら、  まわりの男子生徒にまわしてあげていました。  なるほど、ワタナベさんが人気あるのは、こういった気安さがあるからでしょう。  ちゆは、男の人はエッチな本を読むものだ、ってお父さんに教えられているので、  それぐらいじゃひるみません。むしろ、いつか、あのエッチな本に載るぐらいの  ダイナマイトボディになってみせます。待っていてね、ワタナベさん。  ワタナベさんは、エッチな本、二冊目を取り出して読み始めました。どうやら、  一授業につき一冊消費しているようです。すごいです。  昼休みぐらいになって、ワタナベさんは、先生に呼び出しをくらっていました。  四限目の授業で、とうとうばれたみたいです。  「お前は、どうしてこういうものを持ってくるんだ!」  「すみません! すみません!」  ワタナベさんを怒っている体育教師は、ちゆも知っています。  男子生徒にすごく慕われていて、みんなに『兄貴』って呼ばれている先生です。  なぜか学校内でも権力が強く、体育教官室に個室を持っています。  「…放課後、またここに来なさい」  「ま、マジっすか?!」  「当たり前だろ」  ワタナベさんは、しょんぼりして体育教官室から出てきました。  兄貴先生に怒られたのが、やっぱり痛かったんでしょう。  ちゆは放課後、兄貴先生にこってりしぼられて、ぐったりしたワタナベさんに、  告白することに決めました。男はつらい時こそ、告白されると嬉しい、って、  アンアンに載ってましたもの。  放課後になりました。  ちゆは、体育教官室の前の樹にのぼり、ワタナベさんが兄貴先生に怒られて出て  くるのを待つことにしました。兄貴先生は、新しいジャージに着替えて、なぜか  ウキウキしています。サドなんでしょうか。鼻歌まで歌っています。あれは確か、  中島みゆきの「わかれうた」です。「道に倒れて誰かの名を呼び続けたことは  ありますか♪」なんて言っています。古すぎる上に、暗すぎます。もしかして、  ちゆが思っている以上に、兄貴先生は年をとっているのかもしれません。  「先生…来ました……」  「よく来たなぁ! ワタナベ!」  兄貴先生は、ワタナベさんが部屋に入ってきたとたん、窓のカーテンをしめて  しまいました。そして、ドアの鍵を閉める音がしました。なぜさっきジャージを  着替えている時は全開にしていたカーテンをいきなり閉めたんでしょうか。ちゆ  は、盗聴器の音量をあげました。  「先生…俺、もうこんな関係やめたいんですが…」  「『こんな関係』ってどういうことだ? ワタナベ。ん? ちゃんと答えなさい」  「や、やめてください…そんなとこ、触らないで…」  「お前も、期待してきたんだろ?」  嫌な予感がしました。これは、カズヤお兄ちゃんの時と同じ展開です。しかも、  前より数倍たちが悪そうです。でも音だけでは、確信もてません。  「ワタナベ…お前、本当にこんな関係が嫌なら、どうして俺の授業でエロ本を   机の上で、わざと見つかるように読んでいたんだ…?」  「それは…そんなこと…ない…です」  「きっちり答えなさい」  ギッとイスに座る音がしました。  「ほら、どうして嫌なら、私の腕から逃げない? 答えなさい」  ワタナベさんは、どうやら兄貴先生に抱きすくめられた状態で、イスに座って  いるようです。  「…兄貴先生は、俺のことを…オモチャにするだけじゃないですか…」  「そういうのが好きなんだろ?」  ガリッと盗聴器に雑音が入りました。どうやら、盗聴器のある胸ポケットに、  手か何かが当たったようです。状況を推測すると、兄貴先生が、ワタナベさん  の胸に手をつっこんだのでしょう。  「…先生…。先生は、俺のこと…どう思っているんですか?」  「どう? かわいい生徒だよ…。優秀で、かわいい生徒だ」  「俺は………もう、『先生』とこういうことするの、嫌です…!」  ドンッと音がして、イスがきしむ音がしました。  そして、カーテンが開きました。少し服が乱れたワタナベさんが、窓の側に立って  います。修羅場です。  「もう…それ以上近づかないで下さい! 俺…ここから飛び降りますよ!」  「いや、待て。落ち着けよ、ワタナベ」  ワタナベさんは、いつもの温厚そうな笑顔じゃなく、少し泣きそうな、切ない  顔でした。そして、少したてつけの悪い窓を、「おどしじゃない!」と言うよう  に、ガタガタと開きました。体育教官室は3階にあります。飛び降りたら、多分  死にます。  「俺は…俺は、先生が好きなんです! もう嫌なんですよ!」  ワタナベさん、泣いていました。  窓のさんに足をかけて、兄貴先生に叫んでいます。  ちゆは、ハラハラしながら、どうしようかと見ていました。  ライバルが、兄貴先生だ、ということは判明したのですが、兄貴先生に敵対し  たら、本当に槍で突かれそうです。それに、ワタナベさんが泣くほど好きな  兄貴先生には、勝てる気がしません…。とりあえず、兄貴先生がワタナベさんを  拒否するようなら、ちゆにもまだチャンスがあるのですが…。  「…ワタナベ…お前は、高校生で…」  「そんなこと、関係ない!」  「俺が…言葉なんかでお前のこと縛り付けたら、悪いかな、って思って…でも、   せめて体だけでも…って…」  「…先生…?」  「好きだ…ワタナベ…」  窓全開で、二人はキスと抱擁をしました。ちゆ、玉砕です。  もう見てられません。ちゆは、樹からおりました。  テクテクと歩き、体育教官室の窓の下に行くと、まだ二人はキスをしていました。  あれは、お父さんお母さんがやっている、「ディープキス」というやつです。  長いです。ってゆっか、濃いです。ここは学校なのに、怖いものなしです。  「…ワタナベさん、何やってるんですかー?」  あまりにも長いので、他の生徒さん達に見つかる前に、無邪気な子供のふりを  して、ちゆがあの二人に気づかせてあげることにしました。  二人は、びっくりした顔で、ちゆの方を見ました。  「ちちちち、ちゆちゃん!」  「ワタナベさーん☆」  とびっきりのかわいい顔でニッコリ笑って手をふると、ワタナベさんは、少し  慌てながら、兄貴先生をつきとばしました。  「あああああああのね、兄貴先生に、目に入ったゴミをとってもらっていたん   だよー」  ワタナベさんは、汗をダラダラ流しながら、ちゆにそう言いました。  ちゆは、「へー。ワタナベさん、大丈夫ですかー?」と、だまされてあげた  ふりをしました。他に生徒で発見者はいなかったようなので、今回のことは、  ちゆ一人の胸の中にしまっておくことにします。  ワタナベさんは、ひとしきりちゆの相手をした後、あわてて窓をしめて、  カーテンをしめてしまいました。  ちゆの耳についたイヤフォンから、小声の会話が聞こえてきました。  「さて…相思相愛ということが分かったところで、ものは相談だ、ワタナベ…」  「な、何ですか? 先生」  「お前、コスプレは…好きか?」  「先生…この制服たちは一体…」  「卒業生達が置いていったものだ。ほら、この水着やセーラー服なんて、お前に   似合うと思うんだけれどな」  ちゆは、盗聴器の電源を切りました。  …また失恋しちゃいましたが、ちゆは、変態プレイ真っ盛りの兄貴さんとワタナベ  さんを、生暖かく応援します。
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