最後の夜
25日の冬休み生徒のほとんどが帰省を済ませて閑散とした寮の一室で 健が目を覚ましたのはもう夕方近くのことだった 「げ!!今何時だ?俺は……何時間寝ていたんだ?」 慌ててベッドを飛び降り、薄暗くなった部屋の電気をつける 蛍光灯のまぶしさに目を押さえながら、健はテーブルの上の置手紙を見つけた 『今日はありがとう……またいつか会える日が来ることを祈って……                              宇佐』 「教授……本当に行ってしまったんだな……」 健は腰の鈍い痛みとともにこの二日間を思い出した。 …………………。 ……………。 ………。 ……。 町中がクリスマス色で溢れている中、一部だけモノトーンの雰囲気を醸し出している人物がいた 健が密かに憧れている人物……また健のことを憎からず思ってくれている人物…… 健はその人物に駆け寄った 「こんばんは宇佐教授!何してるんですか?」 「ああ……健君、こんばんは……うんちょっと学校に私物を取りにね」 「私物って?なんで?どうかしたんですか?」 健がたたみかけるように問いただす、その瞳には焦りの色を浮かべて 嫌な予感が健の中を走り抜けていた…… 「急なことなんですがね、うーさー的に、校医を辞めて……  地方の大学病院に行くことになったんですよ……」 (予感的中……これってバッドエンディング?) 健は心の中で呟く。 もう決まったことなのだ…自分が止めても教授は行ってしまうだろう…… また自分にとめる権利などない…… せめて教授がこっちにいる間は…その間だけは…… 「いつ…?いつ行くんですか?」 「25日です……健君に最後に会えてよかったよ」 「25日って明後日じゃないですか?早すぎる……」 健は泣きそうな声になった…… 教授が辞める……前からそう言う噂はあったものの、 まだ先のことだろうと高をくくっていた それが……こんなに早く実現してしまうとは 「健君は夕飯は食べました?教授はこれからなんですが……一緒にいかが?」 「いきます!」 健は勢いよく答えた、少しでも長く教授と一緒にいたかった。 それから教授と二人でレストランを回ったがクリスマスの絡んだ連休で どの店もカップルでいっぱいでとても入れる状態じゃなく、 結局近くのファミレスで遅めの夕食となった。 食事を取りながら、有線から流れてきた音楽に健は耳を止めた       最後の夜だと そう思ったら       笑顔でサヨナラ言えそうにない       でも涙だけは 流さないでおこう       二人の出発する(旅立つ)時なんだから       Uh…抱きしめた思いは音にならずに落ちていくだけ       たった一粒願いをこぼせたなら       一つでも何かを変えられたのかな… 教授と二人で過ごせる時間……それが健の一粒の願い…… やがてその時間も無常に過ぎていった 寮の近くの公園で最後の時を迎える 「それじゃあ…健君……元気で……」 宇佐教授が静かに微笑む 「きょ…うじゅ……」 健は泣きそうになるのを堪えるので精一杯だった 「じゃあ教授は行きます……」 踵を返し歩き出そうとした教授のコートの裾を慌てて掴む 「俺の…部屋に来ませんか?……もうすこ……し一緒に……」 一粒の願いがこぼれた瞬間……二人の唇は重なった 「そんなことを言うと…どうなるか……責任持てませんよ……」 教授が少し困ったように言うのを健は自分の唇で塞いだ…… 「いいんです……俺…教授なら……」 健の部屋のドアを閉めると同時に二人はどちらからともなく唇を重ね合わせた それから二人は獣の様にお互いを求め合い肌を重ねる 教授は健を求め……健は教授を受け入れ…… 朝を向かえ夜になっても二人はいつもどこかで触れ合っていた 二人の間だけ時が止まったような気がした…… 「健……少し……眠ると良い……」 明け方、教授が優しく健に囁くと、健はこれで最後なのだと悟った それでも健は笑顔で答える 「はい……教授おやすみなさい……」 最後のキスをして教授のほうを見る そこにはいつもの教授の静かな微笑があった その微笑を胸に焼きつけて……健は眠りについた 数分後……健の部屋のドアが静かに閉められた……
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