3days
2年前留学先から帰ってきたばかりの俺はその少年と出会った その少年を見たときなんだか危うい感じがした 一見子供が足早で歩いているだけなのに、そこには人を寄せ付けないオーラが漂っていて あれじゃ他の人間が見たら気に障って敵を作りやすいだろうに…… 俺は、なんだかその少年から目が離せなくなっていた。 〜ワタナベ〜 ホテルの一室で彼はマサムネと名乗った、俺より一つ年下の14歳…… 小学生ぐらいかと思っていたのに……なんだか悪い事を言ってしまったかな それにしても……この、毛を逆立てた猫のような感じが面白い… ついつい毛を逆撫でしていじめてしまいたくなる 「まず、お風呂にお湯ためておくからその間にシャワー浴びておいで」 「な……!?お…男に興味はないんじゃなかったのか?」 うん……この表情良いな…面白い 「走り回って汗かいたでしょ?別に興味なくても普通に人がお泊りに来たら普通お風呂とか  勧めるでしょう?なんでそんなに意識してるの?意識して欲しいの?」 「くっ……そんなことあるか!シャワー……浴びてくる」 「案内するよ」 自分でも顔が崩れているのがわかる、なんだかお気に入りの玩具を見つけた時みたいだ これからの3日間本当に楽しませてもらえそう…… シャワーの水音を聞きながら、バスタブにお湯をはる、アメニティグッズの籠の中にある バスソルトを入れるとほのかに漂ってくるラベンダーの香り 音もなくシャワー室のドアが開いてタオルに包まれた彼が出てきた 「うわっ……細っ」 華奢というよりももっと細かった、思わず声に出してしまったので慌てて彼の表情を見る 一瞬、むっとしたみたいだけど、それ以上の表情を崩しはしなかった 彼は無言でバスタブに腰を下ろした、一瞬で顔の筋肉が弛緩する気持ちよさそうな表情 その表情を見た後俺はバスルームから部屋に戻って次の行動を開始した 数分後ルームキーを差し込んでドアを開けるとバスタオルを腰に巻いた姿で彼が立っていた 「貴様…俺の服はどこにやった??」 「ああ今クリーニング頼んじゃった、朝には出来ると思うよ、それとこれ下着ね」 コンビニの袋を彼に手渡す 「いくらもう春といってもそんなかっこじゃ風邪ひくんじゃない?」 袋の中から取り出したトランクスを慌てて穿きながら彼がこっちを睨む やっぱりスタンダードな柄のトランクスが似合うな、自分のセンスにほくそえむ 「服をどこかにやったのは貴様だろうが?」 「バスローブ用意してたのに……ここのバスローブ肌触り良くて気持ち良いよ」 「あんなもん着れるか!!!」 「せっかく用意したのに…くすん、じゃあこれパジャマね」 クローゼットの中にあったパジャマを手渡した 「じゃあ俺もお風呂入ってこよーっと、先にベッド入って寝てて良いからね」 「一緒の布団なんか入れるか!そこの椅子で寝る!」 即座に手元にあった花瓶をわざと倒した、これで床も椅子も水浸しだ 「うわっごめん!手が滑ったー」 「絶対わざとだ……」 「わざとだなんて……別に襲ったりしないし、キングサイズのベッドだから余裕で  二人寝れるし…ベッドで寝てね、じゃあ風呂入ってくるー」 何か言いたげな彼を残して、バスルームに向かった シャワーを浴びてバスタブに浸かるとゆっくりと息を吐くと今度はラベンダーの香りを 思い切り吸い込み走り回ってた数時間前を思い出す、 疲れがお湯の中に溶けていくようだった バスローブを羽織って部屋に戻ると、彼がベッドの隅っこに丸くなって寝ていた 規則正しい寝息を聞きながら、家の近所にいる野良猫を思い出していた 朝起きると彼はまだ寝ていた今度は俺のほうを向いてすぐ傍で丸くなっている 起こさないようにそっとベッドを抜け出し枕元に置いていたノートPCに電源を入れ 起動している間にドアの外にある新聞とクリーニングの袋を取り、コーヒーを入れ 一通り昨日の株価の動きを確認した後コーヒーを啜っていると彼が目を覚ました 「おはよう…マサムネ」 「ああ……おはよ……」 「ほらパジャマお揃いだよー」 「くっ…ホテルのなんてみんな一緒だろうが!」 ……ご機嫌ななめか??その表情がまた…ってだんだん危ないやつになってるな俺 コーヒーをカップに注いで持っていくと彼はそれを受け取り一口啜った とたんに口もをからカップを遠ざけ、まるで苦虫を噛み潰したような顔で言った 「砂糖とミルクはどこだ…?」 「ああ…ごめん俺ブラックで飲むから…こっちにあるよ」 2個入りの角砂糖のパックとミルクを持っていって渡す。 渡された砂糖を入れてまた一口啜るとまたカップを遠ざけて 「砂糖あと2つくれ…」 甘すぎだろ!!と心の中で突っ込みつつも砂糖を渡すとまた2つ砂糖を加えて一口啜る 今度は満足したような表情を浮かべて更に一口啜った……うぷっ こっちの口の中が甘くなりそうだ…… こんな風に二日目も昨夜と同じような感じでずっと過ごした 彼は一見無表情なようで表情が豊かだ、考えていることが顔に出やすい その様々な表情を見たくてついまた色々やってみる…… そして三日目の朝が来た いつもの夢だった、 いつも一人で、 何かに脅え逃げ惑う夢、 何かに押しつぶされそうになる夢 目を覚ますとしばらく最悪な気分になる嫌な夢 目を覚まして自分は一人なのだと思い知らされる夢 そんな最悪の気分でうっすらと目を開けるとそこには心配そうな彼の顔があった 「何か、魘されていたようだが大丈夫か?」 「マサムネ…ありがとう…心配してくれたんだね」 そう言うと彼は慌てて顔を逸らす 「別に!うるさくて目が覚めてしまったから文句を言おうと思っただけだ…  誰が心配なんぞするか」 彼の横顔が赤く染まっていった さっきまでの最悪の気分が消えていくのが自分でもわかる そしてなんだか自分の頬が少しだけ熱くなった気がした やがてホテルのチェックアウトの時間が近付いてくる 荷物をまとめてクローゼットの中にある金庫の扉を開け財布を取り出す 「はいこれ…無理やり引き込んじゃってごめんね」 「別に……結構面白かった……あと…これ…」 財布から数枚の紙幣を抜いて差し出してくる 「いらないよ……引き込んだのは俺だからね」 「いやしかし…」 困ったな……こんな表情を見たいためにやったわけじゃないし 「じゃあ……これでチャラにしよう」 それだけ言って俺は彼の顎を軽く持ち上げキスをした。 自分でもどうしてそうしたのかわからないけど 俺のこと忘れないで欲しい……その思いを込めて…… これで彼は初めてのキスを思い出す時俺のことを思い出してくれるのかな…… それとも男同士のキスなんて…ノーカウントにされちゃうのかな… 彼の目が見開かれ、必死にもがこうとしているのを感じる 唇を離すと左側から握り拳が飛んできたので慌ててよけて荷物を手に取った 「き…貴様よくも……一瞬でも良いやつだと思っていた俺が甘かった」 耳まで赤くして屈辱に打ち震える彼はこの三日間の中で一番良い表情だった 「だからこれでチャラね!ねっねっ」 そう言っても彼の機嫌は直るはずもなく…… チェックアウトをすませ外に出ても彼は一言も喋らずこっちを睨んでいた しょうがないので俺も無言で歩き出す 着いたところは、初めて言葉を交わしたあの公園だった 「ここでお別れだね」 「世話になった礼は言っておく……ありがとう」 「うん俺も……ありがとう3日間楽しかった……」 「じゃあな……」 俺は右の道を彼は左の道を進んだ、彼の足音が遠ざかる 俺は後ろを振り向く気はなかったし、彼もまた振り返ることはないだろう またどこかで出会えると良いな……それまで絶対振り返らないでおこう こうして3日間が終わった ―1年後― 「会長!今日中に新入生から生徒会の役員を  この成績優秀者から決めてもらわないと……」 風紀委員長の春九堂が言った 「わかったよ……あんまりこういうの好きじゃないんだよねえ…」 「でも一年生がいなかったら誰がパシリになるんですか?」 いっそのことパシリなんかやらないような感じのやつを選んでやろうかと 新入生の書類を何の気なく捲っていると手が止まった 「彼で良いよ……この気が強そうなところが面白い……」 「ええ?気が強いやつなんすか?まあでも会長がそういうなら…」 「後は、中等部からいた雪男とか…フォロー上手で良いんじゃない」 「じゃあそれで決定ですね…手続きしてきます」 春九堂の持って行った書類の写真には、今にも毛を逆立てて威嚇しそうな彼 マサムネが写っていた
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